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2006年8月31日 (木)

A・ソクーロフ「太陽」

Thesun 新しい眼鏡が出来たので、映画を見に行くことにしました。
今話題の「ゲド戦記」A・ソクーロフ「太陽」を観ました。
うむむむ、正直言って、どう評価してよいのか、よくわかりません(こんなことは珍しいんですが)。悪くはないと思います。「金返せ」とは思わなかった。でも、人に勧めるか?と言われたら、うーむ、って感じ。
ただ、絶賛する人の気持ちはわかるような気もする。歴史上の昭和天皇ではなくて、等身大の人間裕仁を描こうとしたのは、確かに画期的かもしれない。欧米の人たちにとっては、すごく新鮮だったんだろう。でも、実は立憲君主たらんとした平和主義者で、英語が話せて、ユーモアを解する海洋生物学者である天皇像というのは、戦後生まれの僕たちにとってはよく知ってるあの人の姿であって、それほど意外性はない。むしろ、そこなんだよね、問題は。じゃあ、あの大元帥陛下は虚像なんだろうか。だとすれば、その虚像を作り出していたものは何なのか。
もちろん面白いところは、いくつかあった。
トビウオの爆撃機から魚の爆弾が降ってくる幻想シーン(CG)が話題になっているけれど、子供の頃から両親に、B29の編隊が銀色のジュラルミンの胴体をキラキラと光らせながら飛んでくる様は「すごくキレイだった」と聞かされて育った僕にとっては、とても自然に思えた。きっと活きのいいイワシのお腹みたいに光ってたんだろうなあと思ってたから。
イッセー尾形と桃井かおりは、確かにちょっと他に思いつかないくらい秀逸なキャストだと思う。その点は脱帽するしかない。でも、日本語でしゃべっているところは、どうしてもイッセー尾形に見えてしまうんだよね。むしろ、マッカーサーと相対して、英語でしゃべっている時の方が、天皇としてのリアリティがあったのは、とても不思議な感じがした。
天皇の日常生活のディテールについては、本当によく描けていると思う。ソクーロフという人は、ものすごい量の資料を集めて、下調べを綿密にやる人なんだということはよくわかる。かつて身内に宮中に仕えていた者がいたせいで(映画の中で天皇におでこをはたかれていた老僕がいたけど、まああんな立場の者だと思う)、子供の頃、祖母から時々宮中の様子を聞かされたけど、そのイメージとほとんど違和感がなかった。その意味では「外国人の目から見た変なエンペラー」になってないところは、たいしたもんだと思う。
それと、もうひとつ、これがもしハリウッドで作られても、中国で作られても、決してこんな天皇の描き方にはならなかっただろうということは強く感じた。ロシア人の監督というポジションはやはり大きいと思う。映画の中で、進駐軍のアメリカ兵たちを礼儀知らずのお上りさんに描いている場面があって、結構笑えるんだけど、これはハリウッドで作られていたら絶対あり得ないなと思った。王様というものを見たことがない田舎者のアメリカ人に対する冷笑的な視線と、かつて皇帝を戴いていたロシア人ならではの天皇へのシンパシーが感じられて、印象的だった。
ブルーノ・ガンツの怪演で話題になった「ヒトラー~最後の十二日間」も観たけど、あちらの方は史実どおりにきちっと「最後の十二日間」を追っていて、まるでNHKの「その時、歴史は動いた」みたいだった。あの映画も、それなりに面白かったけど、事実に忠実すぎて、ドラマとしてはみんなが絶賛するほど素晴らしいとは思わなかった。ただ、ドイツ人がこれを撮ったというところが、最大の評価ポイントなんだろうということはわかった。
それに対して、この「太陽」は、日本人じゃなくて、ロシア人が撮ったところが評価ポイントっていうことになる。じゃあ、日本人が撮っていたとしたらどんなものになったんだろう、という想像すらできないところ、これがやっぱり最大の問題だよね。
そうそう、あと、木戸内相があまりに似ていて思わず吹き出しちゃったのは僕だけでしょうかね。

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